健康によい乳酸菌がいっぱい。「飛騨高山よしま農園」の漬物

伝統食は昔からの経験、知恵が詰まった優れものが大半です。漬物もまた、日本人の食生活を支えてきた定番の食品。現代では、添加物を使う漬物がほとんどですが、今回紹介するのは、正真正銘の無添加、自然の味わいだけの漬物です。

勝浦、輪島、宮川とくれば、日本三大朝市のこと。

高山市を南北に流れる宮川沿いで開かれる宮川朝市は、日本三大朝市のひとつとして、たくさんの観光客を集める人気スポットです。
飛騨高山は、土地のほとんどが山林で92.5%もの森林率を誇り、別名「日本有数の酸素の生産地」ともいわれ、炭酸ガスをたっぷり吸収してくれる土地でもあります。

世界遺産の白川郷を擁していることからか、「訪れたい観光地ナンバー1」に輝いたこともありますが、この夏大ヒットした映画『君の名は』の舞台だったこともあいまって、星降る里を求める観光客が、さらに増えることでしょう。

飛騨方言を心地よく聴きながら、朝市を歩く。

豊かな自然環境を背景に持つ宮川朝市は、飛騨方言が耳に新鮮な観光客を楽しませるだけでなく、毎朝7時から地元農家さん自慢の生産物が並ぶ、人びとの日々の生活の要です。
飛騨牛の串焼き、みたらし団子などの香ばしい匂いのなか、漬物や飛騨伝統の野菜が存在感を放ちます。

赤かぶ、ほおば、はところし、あずきな、飛騨リンゴ・・・地元だけで流通が終わってしまうほど稀少だけれど、懐かしく、栄養素がつまった野菜たちは、若手中心の生産者たちが近年復活させてきた地道な努力の賜物です。
宮川朝市協同組合は、中身の詰め替えや外国産の原材料・農産加工品を一切使わないというガイドラインを持ちながら、朝市は農家の晴舞台という考えを貫いています。

健康と暮らしを支える漬物文化。

冬の青物不足が避けられない、冷涼な山国の暮らしでは、昔からの知恵である漬物作りは家庭の食の柱です。
長年、漬物づくりに使われてきた木樽には深くうま味が染み込み、漬物を美味しくする乳酸菌が生き続けています。

「まるで酒蔵の仕込み樽のように、漬物樽もまた、誰にもまさる熟練職人さんなのです」と語るのは、無農薬・無肥料で農作物を育てている農家五代目の与嶋靖智(よしま やすのり)さん。
天然石の漬物石ひとつで20kgある場合もあり、漬物づくりは重労働ですが、この地域に根差した独特の野菜を、漬物本来の伝統的な手法で作り続けてきました。

プラスチックの漬物樽でなく、木樽にこだわる。

与嶋さんのホームページには、漬物が出来上がる過程がこんな風に紹介されています。
「毎年11月に1年分の赤カブの漬け込みを行います。ちょうど霜強く、小雪が舞い始める季節です。1ヶ月ほどかけて漬け込まれた桶は次第に表面に酸膜酵母が張り、白くなってきます。
すると、そのころから、中からポコポコと音がし始めます。
発酵音です。
各桶から出てくる音が鳴り響き、とてもにぎやかな様子です。
そして12月中旬ころ、外気は氷温となり、その冷え込みが発酵さえも止めてしまいます。ポコポコ音が静まり返るのもこのときからです。そこでじっくり氷温熟成が始まります。
春になり、暖かくなるころに、またポコポコなり始めます。春の訪れ(音連れ)を知らせてくれるかのようです。
熟成漬物は、季節とともに変化し、味わい深くなります。人にやさしい味もその季節感から生れてくるのかもしれません」(引用終わり)

こうして天然の天日塩だけで乳酸発酵の力を活かしながら、添加物も着色料も保存料もつかわない、無添加で熟成された漬物ができあがります。
赤かぶ本来の甘さに、熟成したまろやかな酸味が加わり、お茶うけにもご飯にも、一度食べたらやめられません。第一級の和食文化として語れる、まれなる漬物の逸品というべきでしょう。

飛騨高山よしま農園 与嶋靖智(よしま やすのり)さん

飛騨人、農家五代目。4児の父でもある与嶋靖智さん。「食という字は、人が良くなると書かれてできています。食べ物は人間の精神性を培います。だから、食べ物を手がける農家自身も精神性を高めないといけません。無肥料、無農薬で土を活かす発想をもとに、漬物どころ、飛騨高山の伝統を皆さまにお伝えしたいと、朝な夕な北アルプスの山並みを仰ぎつつ、野菜作り、漬物づくりに精進していきたいと思っております」