里芋のアンチョビバター蒸し by井口和泉

庭の園芸ポットで里芋や生姜を育てる

庭の園芸ポットで里芋や生姜を育てています。収穫したてのものは伸びた根がまるで生き物の器官のようで、「ようで」というか、そうかこれらも見慣れないかたちのいきものたちなのだな、と改めて思います。樹木の地下茎もすくすくと天に伸びる長さと同じだけ土の中にある、と聞くように、里芋の根の長さ、大きさも、本体と同じくらい。普段目にしていないからよくしらないだけで、この根っこも調理したら食べられるのではないかしら。たとえばごま油と塩で炒めてしまうとか。知らなかったことを知る、というのもささやかに家で野菜を育てている醍醐味のひとつです。

里芋のぬめりを、とろみとして味わう

里芋は、煮物として味を含める場合はぬめりがなくなるまで何度か茹でこぼす下拵えをするものですが、このぬめりもまた里芋ならではの味わいです。取り除くのではなく、一物全体の気持ちで、とろみとしておいしくいただくのはいかがでしょう。皮を剥いて油で炒めてすこし香ばしさを加えたら白ワインを注いで蒸し焼きに。ほっこりむっちりと火が通る頃には煮汁も詰まってとろりと里芋に絡みます。

根菜の力を借りて、寒い季節を乗り越える

ねっとりとやや重ための食感に軽さと香りを柑橘類で添えて。そのままの一品としてサーブするもよし、フォークで潰してスープで伸ばせば里芋のポタージュに。潰したものをお味噌汁で伸ばした里芋のすり流しも身体の温まるご馳走です。
里芋だけでなく、ちがう食感を組み合せるなら、れんこんを加えて作るのもおすすめです。秋から冬へ。九州は根菜と柑橘類の季節です。「がめ煮」と呼ばれる筑前煮や郷土料理の団子汁(だごじる、と発音します)、面取りされてはいっていれば端正に、ころりと丸い姿で愛らしく、里芋を楽しむ機会も増えてきます。寒い季節を乗り越えるには土の中でぎゅっと栄養を育てた根菜の力を借りて、身体には熱を、心には「根気がつく」ようなきもちでいただきます。

  1. 厚手の鍋にバターとにんにく、アンチョビを加え、火にかける。香りがたってきたら火を強め、里芋を加える。全体に油がまわるようざっと混ぜる。
  2. 塩と白ワインを注ぎ、蓋をする。中火に落として、約5分、蒸し焼きにする。里芋に火が通ったら味を見てたりなければ塩で調える。
  3. 器に盛り、好みのハーブと季節の柑橘類を添える。好みで黒胡椒を挽く。