気候変動待ったなし

あの猛暑をノーテンキに忘れようとしていたら

今年の一線を越えてしまったような猛暑、40℃近い高温は、これまでの「クーラーはできるだけ使わない」という個人的、ささやかなこだわりを、あっさりと捨てさせるものだった。30℃前後の気温はもはや涼しく感じる。暑さの体感基準が、上書きされたらしい。

そして、少し涼しくなると“のど元過ぎれば熱さ忘れ”のたとえ通り、あの酷暑も夏のエピソードとして忘れかけていたのだが・・。

SNS経由で目にしたのは、8月14日に公開された米国科学者たちのレポ―ト。来夏以降も地球が高温化する傾向は変わらないという内容を見て、どうもこれは大変なことが進行しているらしいと、今まで以上に感じている。

パリ協定(平均気温上昇2℃までに抑制)では、間に合わないかもしれない

地球温暖化をめぐる2015年パリ協定では、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えること、さらに平均気温上昇1.5℃未満を目指すことが決まっている。

しかしこの論文では、パリ協定の目標を達成しても、地球の気候システムはすでに「一線を越えて」しまい、地球高温化へのストッパーがきかない可能性があるという恐るべき予測を述べている。

グリーンランドの氷河床が溶けると海洋温度に多大な変化が起きる、またシベリアの永久凍土が溶けると温暖化ガスが大量に放出される・・・などなど、ドミノ倒しのように、これまで地球を人類、生物にとって快適な環境に保ってきた気候メカニズムがバランスを崩す可能性があるらしい。


※ドミノ倒しの要素には、グリーンランド氷床、北極海氷、ジェットストリーム、アルプス氷河、シベリア凍土、エルニーニョ、アマゾン熱帯雨林、サハラ砂漠、サンゴ礁、熱塩循環、インドモンスーン、南極海氷など、注目すべきキーワードが並ぶ。

一線を超えると、転げ落ちる先は「高熱の惑星」

このままいくと、世界の平均気温は産業革命前の4~5℃も高くなる。海面の高さは、世界平均で現在より10~60m高くなるだろうと、科学者たちは予測する。つまり、温室効果ガスを出す人間活動を大きく変えなければ、地球は過去120万年間でも最も高い平均気温となり、海面の高さはこれまでにないレベルまで上昇することを意味する。

これまでのように、のんびりしてはいられない。ある「閾値」=一線を超えると、温室化は1~2年という短い期間で急激に進行し、地球のあらゆる生態系、人間社会、経済に重大な混乱、危機をもたらすというのだから。

「温暖化」「温室効果」という響きには、実際に起きつつある豪雨や豪雪、夏の高温状態の過酷さとは少し違う気がする。「激甚化・高熱化」といったストレートな意訳が必要ではないか。

「穏やかな地球」への、科学者が示す道は

科学者たちは、なんでも数式モデルで説明してくれる。図は、これまでの地球の気候システムの歩みと将来予測のモデルだ。

素人の私には、まるで氷河の跡や造山運動の名残りのように視覚的な印象を受ける。非常に長期的に膨大な要素がかかわる現象をモデル化すると、このようになるのだろう。

図の中央手前には、「安定的な地球」のイラストが置かれている。人類が全面的な努力をして社会変革を成功させ「全力で抵抗を乗り越えて地球を平穏な地点まで押し上げた場合」が示されている。


※奥から手前にTimeは時系列、タテ軸 Stabilityは気候の安定性、Glacial-interglacial limit cycleは氷河期-間氷期サイクル、Holocene:完新世、Anthropocene:人新世、Earth System stewardship:地球システム管理、Human Emissions:人間活動の排出量、Biosphere degradation:生物圏の劣化、Planetary threshold:地球システムの閾値、Intrinsic feedback:内在的フィードバック、Hothouse Earth:高温室化に歯止めがかからない地球、Stabilized Earth:温度上昇しているが安定的範囲にある地球。筆者意訳。

しかし、右側手前の赤いくぼんだ領域は、「高温化、不安定化する地球」だ。視覚的にも、このくぼみに落ちていく可能性がとても高いことが感じられるだろう。

このような運命を避けるためには、人類の価値観、社会制度、経済、技術の根本的な変革が必要だと科学者たちは指摘する。

先進国、開発途上国の間の公平性から、価値観の再検討まで、問題は複雑だが躊躇している時間はない。個人にできることは限られているが、政府、政治、大企業、メディアなど影響力のある機関の動きに注意関心を払うことはできるはずだ。

◎引用:全米科学アカデミー紀要「Anthropocene(人新世)における地球システムの軌跡」2018年8月公開
※Anthropocene=アントロポセン(人新世)とは地質学上の年代分類で、人類の産業革命以来の地球を指す。