「金融系」へ「菌遊系」からの倍返し。

パン屋さん「タルマーリー」。屋号はきっと、サンスクリット語か何かで、奥深い意味があるのだろうと勝手に思いこんでいましたが、ご主人のイタルさんと奥さんのマリコさんの名前からとったものだそうです。

千葉県いすみ市を離れ、岡山で再出発した時期の気迫と奮闘ぶりは、Twitterを通じて拝見して、なんだかすごいぞ、と感じていましたが、「タルマーリー」オーナーの渡邉さんご夫婦の歩みがついに書籍になりました。

自然食品会社で出会った二人が、「田舎でカフェをやりたい」という夢を二人三脚で実現していくストーリー。
「小さくてもほんとうのこと」をこつこつ積み重ねることで、パンの味わいは評判を呼び、食の喜びを周囲に贈ることで店は成功していきます。 しかしこれは、ただの独立体験談の本ではありません。

表紙のイラストに、おいしそうなパンが並ぶ中に、マルクスの肖像がおさまっていることからして、すでにただならぬ予感がします。 渡邉さんがマルクスの資本論に啓発されるのは、独立して店を開いた頃からだそうです。

本の前半では、マルクスの業績をわかりやすく引きながら、労働者を搾取する仕組み、技術革新による人々の貧困化、添加物だらけの食品や、原発を生み出す「腐らない経済」のことを鮮やかに描き出してくれます。

後半の「腐る経済」編では、専門メーカーが製造する「天然酵母」では”まだ本物とはいえない”と自家製の「天然の麹菌」を見出し、自分の手の内に収めるプロセスが面白い。 「小商い」をやりたい人にとっては、大切なことを学べる経営書に。 これからの時代の生き方を探している人には、ぶれない軸を考えるきっかけになる自己啓発本に。

パン、お酒、味噌、醤油その他、「発酵食文化」に興味のある人には、自然界の天然の発酵の奥深さをさらに探求したくなる刺激を与える書になることでしょう。

家族、先祖、仲間たちとのつながりを大切にし、地域の伝統を尊重するところも、とてもよく伝わってきます。 「金融系」ではなくて、「菌遊系」。

これからの生き方のヒントが凝縮していて、微生物の発酵エネルギーがぷちぷちと弾けるようなおすすめの新刊です。