「古来種野菜の写真展」

新年。メール時代の今、みんな内心では手間なのかもしれないが、

賀状交換というものは、やはり悪くない。

日本古来から受け継がれてきた全国各地の「古来種野菜」を専門に扱っている八百屋さん、warmer warmer 高橋一也さんからの賀状は、吉祥寺のカフェで行われる「古来種野菜の写真展」の案内だった。

高橋さんにお会いしたのは、かれこれ4年くらい前。オーガニックレストランの草分けである米国バークレーの「シェ・パニース」創業者、アリス・ウォーターズの40周年記念書籍を見せてもらったり、古来種野菜を手掛けるお仕事のことをうかがった。

高橋さんはその後、古来種野菜を集めて販売する「種市」などの活動が実を結び、新宿伊勢丹本店からお声がかかり、今では伊勢丹地下フロアに野菜のセレクトショップを出している。

「古来種野菜」が、東京のトレンドの先頭をひた走る高級デパートの地下に並んでいる姿は、実に頼もしい。「古来種野菜」を栽培する意味や生産者のストーリーを聞いて購入し、その味の違いから、着々とファンが増えているという。

「古来種野菜の写真展」が見せる野菜への愛情とリスペクト

展示されている写真の野菜たちがとても個性的に、いきいきとしている。
それが古来種の野菜だからなのか?
それとも、高橋さんと写真家のジェニーさんの野菜への思いゆえなのか。
自然光にこだわって撮影された様々な古来種の野菜は、ありのままで、規格にあわせて改良されず、妙に大きく育てられてもいない、自然な姿。

昔からキューピーというマヨネーズの会社が、野菜の写真をとてもきれいに見せる広告を作ってきたけれど、あちらのプロフェッショナルな表現技術とはまた異なる魅力が、「古来種野菜の写真」にはある。

古来種野菜のことを人に話したら、きっと、こんな質問が出るだろう。
古来種を食べると健康によいですか?
その質問の答えは、展示会で会った高橋さんの小さな息子さん(たぶん5歳くらい)の元気さ、鋭敏な感覚と反応のよさに現れているような気がする。

「こんなに落ち着いていて、反応のよい子ども久しぶりだな、懐かしいな」と目を見張る自分。澱みなくクリアで、人と豊かなコミュニケーションがとれる人間。(姿は小さいけれど)
やはり食べるものが違うと、出るなあ。と極めて感覚的な話しだが思ってしまう。

野菜のキュレーター、ギャラリスト、高橋一也さん

現代美術のキュレーター、ギャラリストの小山登美夫さんという人がいて、若いころの村上隆さんや奈良美智さんを、一生懸命に倉庫を改造したギャラリーや、欧米の展示会で宣伝して、じわじわと人気を集めて一気に世界的なアーティストになるまで後押しした。

高橋さんの仕事は、全国各地の志と知識、経験を持った農家さんの古来種野菜をセレクションして、東京という消費の最高地点から発信する、キュレーター、ギャラリストみたいだ。

現代アート作品は、一般の人には無関係のように見えて、実はさまざまなジャンルのクリエイティブに、確実な影響を与えている。同じように、古来種野菜の価値、意味が少しづつ、世の人に知られるようになると、一般のスーパーの野菜を見る目も変化してくるし、古来種野菜をやってみようという農家や流通の人も出てくるかもしれない。

「古来種野菜の写真展」、もっといろんな場所で開催できたらよいのに。
あそこのデパートの空間もよさそう、あのカフェでもと。
そうして、古来種野菜がもっと身近になる日を想像してみる。