「三方良し」(売り手良し 買い手良し 世間良し)の実現。 インカインチオイルの奇跡

インタビュー
アルコイリスカンパニー 代表取締役 大橋 則久さん

健康づくりはオイルが左右するといわれ、さまざまな食用油が話題になりました。
オリーブオイルはもちろんのこと、エゴマ油、しそ油、アマニ油、ギー・・・。
アレルギーや、さまざまな悩みを改善したい思いから、「油にこだわる」という考え方は着実にひろがっているようです。

多数あるオイルの中でも、優れた特長で人気を高めているのが、オメガ3脂肪酸のもとになるα-リノレン酸を50%も含むインカインチオイル(サチャインチオイル)です。

日本にインカインチオイルを普及させたアルコイリスカンパニーの大橋則久社長にお話しを聞きました。(敬称略)

α-リノレン酸が豊富で、酸化しにくい理想の油、インカインチオイル

編集部:α-リノレン酸を約50%も含むインカインチオイルが人気だそうですね。

大橋:インカインチオイルは、人の体内でオメガ3脂肪酸に変換されるα-リノレン酸の含有量が約50%と、これまでの食用油の中では、エゴマやアマニと並び突出しています。

インカインチの実を低温圧搾したオイルなので、原料由来の栄養をそのまま摂ることができます。薬剤で抽出したオイルとは違って、自然な風味が楽しめるという良さがあります。

こうしたメリットから、食べ物と健康への意識が高い人を皮切りに、インカインチオイルが注目を集めるようになったのだと思います。

編集部:インカインチオイルのその他のよい点は?

大橋:良質な油の条件として大切なのが酸化しやすいかどうかです。インカインチオイルは、酸化防止作用を持つ天然ビタミンEを豊富に含んでいるので、安心して食用油として美味しく楽しむことができます。

また、PAO抗酸化能測定値で見ますと、インカインチオイルの抗酸化力は、アマニ油の約2.5倍、ORAC活性酸素消去能力はエクストラバージンオリーブオイルの約22倍という数値があります。

さらに、インカインチオイルを実際に食べ続けた実験では、他の油脂に比べて、DNAの酸化損傷を低減させていることを示すデータが得られています。

アグロフォレストリーという理想の農業形態を目指して

編集部:インカインチオイルを扱うようになったきっかけは?

大橋:私たちアルコイリスは、ペルーのNGOと連携してペルー・アマゾンの熱帯雨林保全と地域経済の活性化を目指すために設立されました。その立ち上げ時期に、現地の研究者で実業家とホセ・アナヤ氏と出会い、先住民族の時代から食べられてきたインカインチの油脂がとても優れていることを教えてもらい、ビジョンを共有してインカインチオイルを事業化するプロジェクトが始まったのです。

日本国内での発売は2006年からで、当初は自然食品店などで販売していましたが、現在では高級スーパーやデパートの食品売り場でも定番の健康オイルとして認知されるようになりました。

編集部:大橋さんのお話しでは「アグロフォレストリー」という言葉がよく出てきますが?

大橋:アグロフォレストリーとは、一つの農地に多様な作物を組み合わせたり、林業と農業を複合したりして、農地を自然に生かし、持続可能な農業を行おうという農業の形態です。ペルーでは、焼き畑農業がおこなわれてきましたが、アグロフォレストリーが定着すれば森を守るだけでなく、現地の人たちの所得も上がり、生活水準の向上につながると考えました。

編集部:JICAのプロジェクトにもなっているそうですね?

大橋:2012年から2017年まで「マイクロビジネスによるアグロフォレストリー生産者コミュニティ支援事業」という案件名で、JICA(国際協力機構)の支援事業として、アグロフォレストリー生産農家を支援し、農業生産から畑に隣接した共同作業場の設置などの加工生産にいたるまで、コミュニティーの能力向上に取り組みました。

プロジェクトの説明会は42回におよび、延べ1042名の生産者が参加しました。現地は道路もなく、雨季にはボートしか交通手段がないような環境ですが、参加した農家の所得水準が著しく向上するなどの成果がありました。

また、インカインチの油を摂ったあとの実は、非常に良質な植物性プロテインになるので、これを現地の食生活の改善につなげる活動も行っています。

現地の生活水準の向上と、消費者の健康づくりに貢献

編集部:インカインチによる現地への貢献が実を結んでいるのですね

大橋:アグロフォレストリーは林業と農業を組み合わせる生産技術なので、目に見えて成果が出るまでは、ある程度時間がかかります。今後、インカインチをスターターとする遷移型アグロフォレストリーシステムが定着し、普及することを願っています。

地域での活動を通じ、プロジェクトが対象とした村落は、文化的にも、歴史的にも、地理的にも共同組合活動が根付くのが難しい地域性であることがわかりました。

そのため現在は、当初目指していた共同組合の代わりにフェアトレード的な理念を持つ民間企業による地域開発を継続しています。その中で、日本の技術を取り入れた微生物農法の開発にも力を入れています。

編集部:エル・ニーニョ(冷害)の影響で品不足もあったそうですが?

大橋:海流の蛇行によりペルー沖合の海域の海水温が上昇する、エル・ニーニョ現象の影響は大変大きく、インカインチの農業生産に深刻な打撃を与えました。これも自然の恵みを生かす商品ならではの悩みなのですが、人気の高まりもあって、在庫が不足してしまいました。

今年は、インカインチオイルの生産も復活し流通できるようになりましたが、安定供給のための対応を進めているところです。

「八世代先まで考える」アマゾン先住民の奥深い知恵に学びながら

編集部:今後のアリコイリスの活動についてお聞かせください。

大橋:アマゾンの先住民は、「1本の木を伐るときにも、自分たちだけでなく、八世代後までのことを考えてから決める」といいます。私たちはこの先住民の知恵に学び、現地の自然と人々の暮らしが持続可能で豊かなものになり、また消費地である各国の人々の健康づくりにも役立てるよう、バランスのとれた事業活動を地道に継続してきたいと考えています。

ペルー・アマゾンの「カムカム」が一時期ブームになりましたが、競争が過熱してブームが去ると畑が放棄されてしまいました。このような事例もふまえ、今後も安定的に生産者、消費者の双方が、大変優れた栄養特性を持つインカインチの恩恵を得られるよう、誠実に事業を進めてまいりたいと考えています。

インタビューあとがき

アルコイリスカンパニーでは、インカインチオイルだけではなく、その実を活用した植物性プロテインや、ペルー産のドライフルーツ、キヌア、アマランサス、カニーワなどのアンデス産スーパーフード穀物や、カナダ産ヘンプオイルなど、多彩な商品を揃えています。

その活動はまさに、古くから活躍した近江商人が理想とした「三方良し((売り手良し、買い手良し、世間良し)を地で行くものです。