ネクタリンのグリル by井口和泉

フランス南西部の杏は、瑞々しさとやわらかい酸味が特徴

外国で出会った料理を、なんとか再現したいと考えて工夫することがある。素材の質が違っていたり、調味料が手に入らなかったり、難しい点はいろいろあるけれど、うまくいったときのよろこびは格別です。フランス南西部で出会った杏(あんず)の瑞々しさとやわらかい酸味は日本で出会う杏とはまるで違い、つるりと皮を剥いてそのままいくつもおやつにしたり、スライスしてバタ付きパンに載せたり、マルシェに行くたび買い求めました。滞在していた小さな村から、また違う地方へ小旅行へ行く際にはおやつとしてバスケットにもしのばせる。籠の中にちんまりと収まる丸い実は小さなお日様のようです。

ヨーロッパの日の長い季節。21時まで空は明るい

杏の実のなる頃のヨーロッパはいつまでも日が長く、21時を過ぎても空は明るい。地上で、どこまでも連なるなだらかな丘に、木々に、ぶどうの畑に、しみいるように金色の光が射して輝いている。長い、ゆるやかな黄昏の中に、いつのまにか降りてくる夜もまたどこまでも藍で深く、底抜けに色が明るい。緯度の高い場所の独特の風景だとも言えるが、なめらかな布のように人々を包む夕暮れに、夜に、懐かしい美しさが満ちている。一日が終わっていくときのやわらかな安堵感、いつまでも明るい夜に聴こえてくる人々が集って食卓を囲む音、その土地にいることを住む人たちが喜ぶ気配が、空気の中に光の粒のようにある。目に見える風景が美しいからといって、そこに住む人たちのすべてが善良な訳ではもちろんないけれど、夜が優しく朝が楽しくありますように。

ネクタリンを火に通して香りと酸味を強くする

日本でヨーロッパの杏に近い仲間といえば、ネクタリン(すもも)です。たっぷりとおやつや朝ごはんにいただいた杏や、その仲間のネクタリンは、火を通してサラダにしてもいい。香りと酸味がふっくらと力強くなり、生でいただくのとはまた違う魅力があります。せっかくなのでフロマージュも手作りで、できたての温かいものを。果物も、牛乳のように身近にあるものも工夫次第で印象が変わります。夏は身体を冷やすばかりでなく、温かいものをいただくことで身体が体温を調節しやすくなるとも言われます。休日のブランチや、アペリティフのお供にどうぞ。

  1. 牛乳を小鍋で沸かす。米酢を加え、火を止めてゆっくりと混ぜる。分離してきたらキッチンペーパーを敷いたざるで漉す。カッテージチーズになる。
  2. ネクタリンは半分に切り種を除く。フライパンにオリーブオイルを熱し、ネクタリンを切った断面を下にして軽く焦げ目がつくまで焼く。
  3. ②が温かいうちに①をくぼみに詰め、器に盛る。好みの香草を散らす。