鰯と蓬(よもぎ)のお味噌汁 by井口和泉

庭先でよもぎを摘む母が思い出した、祖母のお味噌汁

いわしとよもぎ。これはおばあちゃんの味。母方の祖母は、私が幼稚園の年少組の時に亡くなったのでおぼろげな記憶しかない。冬休みに遊びにいくと、炭の上でお餅を焼いてくれて、砂糖と醤油、海苔を添えて渡してくれたことと、祖母が丹精していた庭の椿がつやつやときれいだったことが思い出です。

家の庭先でよもぎを摘んでいた母が、よもぎといわしのお味噌汁を祖母がよく作っていたと教えてくれたので、昼食に試してみました。ぶつ切りのいわしとよもぎだったらしいけど、いわしの臭いが気になりそうだなあと思って、その時は生姜を効かせたつみれ仕立てで。お味噌汁になる前提なので、自然塩と酒と生姜と豆腐の他はほんの香りづけ程度に薄口で調えるだけ。沸いた湯に、つみれをスプーンですくって入れて静かに火を通したら、味噌を溶き入れて、仕上げにぱあっとよもぎを入れて出来上がり。うん、上品で、いいんじゃないの。食べてみると、よもぎの清涼な香りで口の中がさっぱりします。むしろいわしの風味が負けてしまって物足りない。こんなにもよもぎばかり爽快な印象が残るなら、いわしはつみれにせずにぶつ切りで火を通しても良かったかも。その方が、野趣に溢れて鮮烈だったかも。

海と野の香りが立ち上る、絶妙の取り合わせ

おばあちゃまが、つみれ仕立てにしなかったのは、それはそれで理由があったのかもしれないわ、と、ぶつぎりか、そういうの、好きじゃないな、と、一足飛びにつみれにしてしまった、自分の早とちりと言うか、勇み足に恥じ入った。ばかだなあ。なんにでも、するのもしないのも理由があるはずなのに、勝手にそこを飛ばした自分の慢心や雑駁さに心が痛い。あいたたた。うん、まあ、つみれにしたことによって、「つみれにしなくても、充分に美味しいかも」と分かったことは良かったです。前向きに考えよう。もう一度作る。今日の本題のレシピはこちらです。

いわしは頭を落として内蔵を除いて、冷たい塩水の中で手開きにして骨をはずす。さっと湯に通して霜降りにして、3cm長さほどのぶつ切りにして鍋に沸かした湯の中に入れる。よもぎも茹でて冷水にさらしてギュッと絞って粗く刻む。いわしに火が通って香りがしたらふつふつする程度の火加減にして味噌を溶き入れる。よもぎはお椀に盛っておいて、熱々のいわしのお味噌汁を注ぐと香りがたつ。海と、春から初夏の野の香りのする仕上がりになりました。うん、やはり、こちらの方がバランスが良い。

受け継いでいきたい「家の味」

祖母がよく作ったといういわしとよもぎのお味噌汁は、たぶん私は食べたことはなく、あったとしても覚えていない。正確な作り方を尋ねることはもちろん出来ないから、これは私が自分で作っていく料理なんだろう。祖母に教わったこともないレシピを私が作る。不思議だなと思うけど、「家の味」は、こんなかたちでも継いでいくものなんだろう。つみれも、ぶつぎりも、どちらもレシピ帖に記しておこう。

ちなみに父方の祖母の思い出は、遊びに行くと作って待っててくれていた「凍りバナナ」です。じわじわ溶ける果肉の部分が、アイスみたいで美味しかった。いまでも作る夏のおやつです[/vc_column_text][/vc_column][/vc_row]

  1. 小いわしは頭とわたを除き、冷たい塩水の中で手開きにして骨をはずす。さっと湯をかけ回し、余計な水分を除いて長さ3cmにぶつ切りにする。
  2. よもぎは熱湯でさっと茹で、冷水にさらす。ぎゅっと絞って粗く刻む。
  3. 鍋に湯を沸かし、⑴のいわしを加える。火が通り、いわしから出汁が出たらふつふつする程度の火加減に調え、味噌を溶き入れる。
  4. お椀の中に⑵のよもぎを入れておき、熱々の⑶を注ぐ