世田谷!から愛を込めて (第1回 世田谷野菜)

世田谷の地がまだ残す”農業力”を再発見する

東京都世田谷区は、90万もの人々が暮らす職住接近エリアです。
下北沢、三軒茶屋などの庶民的な商店街から、代田、成城といった高級住宅地まで、
商店や住宅がくまなく続き、また一方通行の狭い道路が多い、そんなイメージもある土地柄です。

世田谷という地名には、田んぼ、谷、つまり水が豊富な土地という由来があります。
代沢、北沢、奥沢、駒沢の地は、緑豊かな等々力渓谷と並んで”世田谷五沢”と呼ばれるそうです。

宅地化がすっかり完了したかに見える世田谷ですが、
意外なことに農家の数は、都内で練馬区に次いで2番目。
もともと恵まれた地の利から、農家さんの生産力は、豊穣そのものです。

そんな、「世田谷の農」に着目して、野菜の販売をはじめた人、
世田谷の畑でホップを育てて、「世田谷産のビールを作りたい!」と
仲間と活動を続けている人がいます。
自分がいる足元のところから面白いことをしよう!
そんな思いと動きをシリーズでご紹介します。

第1回:「世田谷野菜」の八百屋さん
第2回:世田谷産ホップ入り!二子玉川の地ビール「フタコビール」
第3回:密着!世田谷野菜が店頭に並ぶまで

第1回:「世田谷野菜」の八百屋さん

「とってもひたむきで、熱心な若者がうちの野菜を買いにくるんだよ」
世田谷で本格的な農園を営む友人から教えてもらったその青年は、
今春、早稲田大学を卒業したばかり。
世田谷産の野菜を専門に商うというユニークな合同会社「KAKUMEI」の代表、平野拓巳氏に事業に懸ける思いを聞いた。(敬称略)

編集部:平野さんが農業に携わろうとした原点ってなんでしょう?
平野:僕は小学生の頃から、群馬県川場村に拠点をおく、
NPO法人あるきんぐクラブのサマーキャンプに参加していました。
電気もないところで、創意工夫して頭に汗をかく経験をして、
自然を相手にしていたい、という気持ちも同時に育っていたのではと思います。
編集部:生まれ育った世田谷で事業を起こしたわけですね?
平野:世田谷区は東京都で二番目に農業が盛んな区です。
農業の歴史も江戸時代から綿々と続いてます。
そんな背景がありながら、
多くの農家さんたちは、無人販売などにとどまり、
流通の販路が限られているのが、
もったいないと感じていました。
編集部:なるほど、それでまずどんな活動から?
平野:農家さんは、早朝から畑に出ています。
その必ず会える時間帯に訪問して、作業の邪魔にならないようにしながら
「野菜を売ってください」とお願いしていったのです。
編集部:ああ、その話、友人の農家さんも言ってました。
毎朝 大きな声で「おはようございます!」って、現れるんだって。
平野:笑、挨拶が基本ですよね、
そのうちに根負けしてくれるのか、
耳を傾けてくださり、我々に農作物を売ってくださる農家さんも出てきたのです。
編集部:それは、執念ですね。
その買い付けた野菜はどう売りさばくのですか?
平野:世田谷線沿線で、駅近くに小さい店舗が3つあり、
そこで新鮮な朝採れ野菜を並べています。
野菜は鮮度が一番、しかも、地元の世田谷産ということで、
主婦層を中心によく売れています。
編集部:「平野さんは、絶対に売り切ってきてくれる!
昨冬の白菜漬けは売れ行きがよくて、何回漬けこんだことか」と
友人も絶大な信頼をおいていましたよ。
平野:香取農園さんの白菜漬けは、本当に評判がよく、
「この塩加減は絶妙だ」と引き合いもすごかったですね。

(第2回に続く)