NQインタビュー Vol.11
バッチホリスティック研究会理事 林サオダ

学者肌の父と和の世界の母の間で。

実存主義にかぶれ、哲学科をめざすが挫折を味わう

「読書が大好きで、早熟な小学生でした」。 父は、実業家として経営に携わっていたが、本来は芸術至上主義で西洋文化が好きな学者肌。一方、母は、船場の商家の孫娘として育った大衆的な人。そんな二人の間で、3人姉弟の長女の林は、父とクラシックを聴き、洋画を見て、母には時代劇映画や歌舞伎につれていってもらいと、異国と和の2つの文化を豊かに吸収して育った。とりわけ父は、子どもであっても一個の人間として扱ってくれたが、林は、ものの考え方や人としての基本は父から学んだと思っている。
「腕に生まれつきの赤いアザがあるのです」。冬になるとアザは紫がかり、思い込みだろうと林は語るが、幼稚園で男の子と行進するときに手をつないでもらえなかったような記憶がある。黒板にものを書くときも、お茶を出すときも、アザが気になって仕方がない。
「まわりからは快活に見えても、自分の中にどこか暗いものがあったように思います。三枚目で冗談をいって笑いをとろうとする自分とのギャップを常に抱えていました」。 区立中学から、才媛が集まる国立の高校に進んだが、「次第に落ちこぼれていった」と林はいう。好きなことには夢中になるが、それ以外は勉強しなかった。 「頭でっかちで、小生意気で変な女の子だったんでしょうね。実存主義にかぶれて、哲学科に入りたかったのだけれど、落ちてしまいました」。

ニューエイジ、神秘主義との出会い

人智を超えたものを知ることで謙虚になる

好きだった英語を活かして通訳の勉強をし、仕事をはじめた林は、ビートニク、米国のニューエイジムーブメント、また、グルジェフ、ウスペンスキーの神秘主義思想にも触れていく。異文化への興味が旺盛で、外人の友だちがたくさんできた。NY出身の米国人を通じて、20歳のころに、それ以降生涯影響を受けるスピリチュアルなエクササイズに出会う。それまでの林は、女性であることへの肯定感が薄く、人間は頭がよくなくてはだめという観念に必要以上にとらわれていたという。大学受験をはじめ、物事が思うようにならず挫折も感じていた。しかし、このエクササイズを通じて、人智を超えたものを感じ謙虚になり、自分が女性であることを素直に受け入れるようになった。
「親や先生のいうことも聞かず、頭でっかちだった私がこうした謙虚な気持ちになれたことは大きかったですね。もともとがネクラで、どちらかといえば厭世的で黒い世界に関心があったのが、白い世界を素直に美しいと思えるようになりました」。
それまでの林は、この世にいることに対して、どこか現実感が希薄で、いつも異邦人のような気がしていたという。 「どこかこの世に着地していない自分でしたが、内側から自然にわき起こる“素の自分”を認め、生きることはすべてつながっていると思えるようになりました」。

翻訳を通じてバッチフラワーレメディを知る。

英国バッチセンターの門を叩き、受講生となる

結婚して子供をもった後も、翻訳や通訳の仕事をしていたが、お金になっても興味のないものはやりたくなかった。そこで、セラピーやホリスティックな健康のテーマを対象に仕事をしているうちに、1992年に『癌のセルフヒーリング』という本を翻訳する。イギリスのブリストル癌ヘルプセンターに勤務していた看護師の著書で、そこにバッチ博士のフラワーレメディが紹介されていた。
イメージワークやアートセラピーなど、さまざまな心理療法を学んでいた林は、 その後、実際にブリストル癌ヘルプセンターに行きホリスティックなプログラムの研修を受ける。ここでは医者、セラピスト、栄養学者などが連携し、癌患者自身が心と体でトータルに癌と取り組むための方法を学ぶ、病院というよりも研修施設というべき場所で、患者の家族や援助職のための研修も行っていた。
林はここでさらにバッチフラワーレメディへの興味を深めた。イギリスのバッチセンターでは、当時はまだ国外からの受講生は受け入れていなかったが、授業、試験や課題提出も全部英語で可能ならよいとなってコースを受講でき、修了後バッチセンターにプラクティショナーとして国際登録した。

時代に先駆けて「人の感情」に注目したバッチ療法

バッチフラワーが自分自身の内面との対話を促す

「バッチフラワーレメディ」とは、1930年代に英国の医師エドワード・バッチ博士によって生み出された、野の花や草木から作られたエッセンス(レメディ)を使って、心や感情のバランスを取り戻そうとする自然療法だ。当時、最先端をいく腸内フローラ研究をしていた細菌学者であるバッチ博士は、一人一人の患者がそれぞれに異なった存在であり、機械的な一律の処方では対応できないこと、そして、腸内細菌のバランスが肉体と精神に影響していることに気づいた。
ワクチンの研究開発に従事しながら、ホメオパシー医としても嘱望されていたバッチ博士は、1928年にまずホメオパシーの作り方で2種のフラワーレメディを作った。その後、試行錯誤の末に、澄んだ自然水を入れたガラスのボウルに花びらを浮かべ太陽の下に置き、花の持つ癒しのエネルギーを水に転写させる「太陽法」で次々にレメディの種類を増やしていく。後半は煮沸法も使い、最終的に博士は38種のレメディを完成した。この中から、その時々の自分の内面の状態に当てはまるレメディを選び、水で希釈して飲むことで心身が快方に向かうという。

60カ国以上で使用されるバッチフラワーレメディ

科学的には未解明ながら認められるバッチの存在感

心、感情の調和が、身体の健康と繋がっていると看破したバッチ博士が考案したフラワーレメディは、70年以上も使い続けられ、現在では60ヶ国以上の国々で医師や看護師、獣医などに使用されている。イギリスの看護大や、ポーランド、ブラジル、オーストラリアの大学、教育機関では、バッチを学ぶことができる。また、医療先進国のキューバでは行政がバッチフラワーをとりいれている。「バッチフラワーは医学ではないし、日本では薬ではなく健康食品として扱われます。しかも作られ方や有効性は、科学的にはいまだに解明されていないのです」。
英国バッチセンターは、バッチ博士の「このシンプルな方法を変えないで、そのまま伝えよ」という言葉を守り続けている。「バッチフラワーがなぜ効くのかを解明する鍵は、最先端の物理学の中にあるのかもしれません。私は日本でバッチをやりながら、やはり有効性を調べたいと思いました。英国人のハーミア女史と共に日本にバッチを紹介し始めたばかりの頃には、超常現象の専門雑誌から取材がきたりして、本当にかなり変わったものとして扱われていましたから」。
より安心して一般の人がバッチを利用できるように、林は受講生の中にいる医療従事者たちの協力を得ながら、医学的な意味を持つ研究も進めたいと考えている。

着実に増え続ける日本のバッチフラワー利用者

「たまねぎの皮をむくように」進む変容のプロセス

林はこの10年ぐらいの間に、日本でもバッチフラワーが、着実に浸透してきている手応えを感じている。
「今は、セルフヘルプとかセルフケアが非常に求められている時代。具合が悪いからと医者に頼るより、まずインターネットで自分で調べてから判断するなど、健康への意識が高い方が増えています。役立ちそうなものは取り入れてみるという方にとって、バッチフラワーは禁忌がないし、あまり知識がなくても使いやすいのではないでしょうか」。医学的な研究はまだ途上だが、欧米ではホスピスや病院や助産院でも使われていることなどから信用し、実際に使用して効果を期待する人が増えているのだろう。
「バッチフラワーは、非常に穏やかな自然なもので飲む人に無理がない。私たちプラクティショナー(ガイド役)のコンサルテーションでは、相談者の気持ちを傾聴する過程で、本人が自分の内面のネガティブな感情に気づくサポートをして、その感情に対応したレメディを一緒に選びます」。
レメディを使う場合は、自分を見つめ、今の感情に気づいたところでレメディをまず飲んでみる。それを飲んで、何らかの変化を感じたら、新たに浮上したネガティブな感情にレメディを選ぶ。それは、たまねぎの皮をむいていくように、無理なくその人のペースで進む変容の過程だ。

『よく生き、よく死ぬ』ということ

その人が自分らしくいることが何よりも大切

『汝自身を癒せ』とはバッチ博士が繰り返し述べ、著書名にもしたバッチフラワーレメディの哲学というべき言葉だ。自分の内面を深く探究する人にとっては、その哲学を読み込み、レメディを飲んで自分を振り返ることができるだろう。またいっぽうでは「今こんな気分だから、このレメディを飲んですっきりしたい」という程度の人もいるだろう。林はそれでいっこうに構わないという。
「その人が自分らしくいることが何より大切です。バッチフラワーレメディが絶対というつもりもない。それを使い、自分の道が見つかればよい。自己発見の旅が深まるのが、バッチフラワーレメディのよいところです」。
「人間も大きな宇宙の一部であり、この世に生命をうけた魂が、自分がなんのために生きて行くのか、本当はどこか深いところで知っている。その人らしく生きるためには、魂の命ずるままに、内なる声に耳を傾けることが何よりも大事だとバッチ博士は語っています」。
林は娘のひとりをこれからが楽しみという年齢で病のために失っている。「でも、すべてはつながっていて、この世にいる自分だけがすべてではない。誰もが肉体に一度宿って死んでいくが、魂は死後も成長し続けると考えています。だからこそ、自分らしく『よく生き、よく死ぬ』ことが大切だと思うのです」

野に咲く花と植物が与えてくれる幸福へのヒント

バッチ普及を支える「大いなる世界を見すえる、自由で謙虚な魂たち」

バッチフラワーレメディは、若い人がファッション感覚で楽しみながら、あれこれと選んでもよいし、精神科医が患者の心理状態にあわせて利用することもできる。日常の暮らしから医療現場まで、どんなケースでも対応できるのがバッチフラワーだと林はいう。
「バッチフラワーは、たとえ本人が混沌としていても、適切なレメディを使えば効果を感じることができます。飲もうとする時点で、自分の感情を見つめる必要があるので、結果的にセルフケア、セルフカウンセリングになっている。自分で自らを癒すのです」。
“治す人と治される人”という依存的関係を解消できるのも、バッチフラワーの優れた面だ。
当然のことながら、林はバッチフラワーが一時の盛り上がりでブームとして消費されて欲しくないと思っている。医療従事者から主婦まで、幅広い層に安心して使えるものとして、ゆるやかなネットワークで着実にバッチを普及させたいのだ。
「“こうでなければならない”と決めつけることなく、いろいろな人が無理なくバッチフラワーレメディとつながっていけるといい。そして、今の日本にはいろいろな困難があるけれど、みんなが幸福に生きていけるように普及させたい。私自身も残りの人生を、自分そのものを生きたいと思っています」。
バッチフラワー普及の陰には、「大いなる世界を見すえる、自由で謙虚な魂たち」の存在があった。


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