オーガニックコットンから見えてくる「世界」のこと

コットン畑の牧歌的イメージ。そして、現実の姿

アメリカ映画を見ていると、古い時代のコットン収穫のシーンが出てくることがある。
広大な綿畑、ふわふわの白い綿花(コットンボール)が実からはじけるのを、黒人の登場人物が手で摘み取る。
人がいちいち採取するならば、とても手間のかかる作業だろうと、見ればわかる。
いかにも、労働しながら、ブルースやゴスペルの原型になる歌が生まれそうな営み、暮らしだ。

しかし時代が流れ、フォードが自動車を大量生産し、便利な農業機械が売り出されるようになったら、農場主としては小作人にコットン畑で歌わせている場合じゃない。アメリカの綿花栽培は、大規模化、機械化が究極に進んだ農業ビジネスだ。空から軽飛行機で大量にまく農薬と殺虫剤。そして、落葉剤。「機械で綿花を収穫するには、茎などの部分が枯れていないと、葉緑素でコットンが汚れてしまいます。だから、アメリカではベトナム戦争で使われた枯葉剤のような落葉剤を、収穫前の畑にまくのです」(Leeジャパン 細川さん)

世界中の綿花生産地で程度の差はあるが、似たようなことが行われていると想像できる。コットン畑の面積は、世界の農地の約3%しかないが、使用される農薬の量はその約25%に達するという話もある。あるいは反対に、大型農機を導入できない貧しい国では、手間のかかる作業を児童労働などによってこなし、コストダウンを図る。それが、いま流行の“ファストファッション”を支えている底辺だ。

ファストファッションのメッカ、渋谷のど真ん中で、オーガニックコットンを語る

「冷え取りガールズ」などお洒落で健康なライフスタイルの情報発信で人気の雑誌「マーマーマガジン」が企画した「オーガニックコットン・ファンクラブVol.2」が2/21(日)、渋谷のカフェ、ピコクラブで催された。トークイベントの出席者は、「マーマーマガジン」編集長の服部みれいさん、Leeジャパンのディレクター細川秀和さん、モデルのリリアンさんの3人。

自社商品の50%にオーガニックコットンを採用しているというLeeの細川さんは、ジーンズメーカーのエドウィンに入社して以来、Lee一筋に仕事をし、世界の綿花生産地を飛び回ってきた業界随一のデニムの専門家だ。トークセッションは、細川さんによる世界のオーガニックコットン生産国の状況レポートをメインに服部さん、リリアンさんのかけ合いを交えて約2時間行われた。

現在、オーガニックコットンの生産量は、コットン全体の約1%にも満たない量だが、
農業現場での健康被害や、農薬・農業機械の維持費などのコスト問題もあり、オーガニック栽培への移行が急速に進んでいるのだという。

インドではオーガニックコットンの生産量が2007-2008年で392%も伸び、アメリカでも2009年には対前年比で26%も、オーガニック生産者数が増えているという。これは、オーガニックプレミアム(“オーガニック=高価格”)による栽培への動機づけも大きいが、
「インドでは従来の化学肥料、農薬中心の栽培方法の限界を知り、国をあげてオーガニック栽培への移行を真剣に進めている」(Lee細川さん)ということだ。
この他、シリア、トルコ、中国、ペルー、ウガンダなど主要オーガニックコットン生産国の状況を細川さんが語ってくれた。

自分が着ている服のコットンが、どこから来たかも全く関心がなかった筆者には、久しぶりに社会科の面白い先生の授業を聞いているように、あっという間の時間が過ぎた。服部さん、リリアンさんによれば、オーガニックコットンの服は、一度着るとその心地よさを体が覚えてしまい、つい手が伸びて、その日の服に選んでしまうそうだ。

細川秀和さん(Lee Japan ディレクター 取締役)

オーガニックコットンをきっかけに、見えてくるたくさんのこと

渋谷の街並みが見えるガラス窓を背景に、会場からは、セッション終了後
に積極的な質問が続いた。

「綿花栽培は、大量の水を必要とするので地下水枯渇の原因になっているそうですが?」
「オーガニックコットン使用と書かれた製品が安く売られていると、本物か?と疑問に感じます」
「オーガニック認証のコストとは?」などなど。
皆さんの質問、本質を突いたスルドイものばかりで、細川さんの説明にさらに深みが増す結果になった。

オーガニック認証といっても、生産者から見れば、認証の手間、時間、コストがかかり、
実態にフィットしない現実。また、認証ビジネス化している面もあること。
いっぽうで一部の国では、“オーガニック”と謳う基準が緩く、あてにならない…。
繊維業界を大きく見れば、生産が伸びているのはポリエステル製品のようであり、コットンの需要は弱含みなので、オーガニックコットンのマーケットが小さい段階で、オーガニックに移行する生産者が急激に増えると、値崩れを起こして経営難に陥ることが心配されること。

「アフリカでは食料生産を飢餓解決のために優先しなければならないが、オーガニックにこだわることが、その地域にとって、本当にベストなことなのか?全体のバランスを見ないと難しい問題もある」(細川さん)

単純にエコ万歳! オーガニック万歳! とはいかない重みのある発言は、世界中のコットン畑を見て歩いてきた人ならではのものだ。オーガニックコットンを通じて、相場で価格が上下する市況商品であるコットン、生産者にとっては、食料のように腐らないので商品価値の高いコットン。そんな経済的な側面も教えられた。

<p消費者が“オーガニックコットンの製品が欲しい”と声をあげ、適正な価格で購入することの影響力はとても大きなものだ。

マグロのトロを有難がって、世界中からかき集めるよりも、「日本人が適正に生産されたオーガニックコットンをものすごい勢いで欲しがっている!」なんて情報が世界を駆け巡ったら、どんなことが起きるだろう。と書きながら妄想。

それにしても、今回のようにちょうどよいサイズで互いにコミュニケーションをとれる場は、会話が広がり(服部さんの場作りがまたよいのだが)、とても意味があると思う。「マーマーマガジン」の素敵な企みに、引き続き注目。

リリアンさん(モデル)  服部みれいさん(「マーマーマガジン」編集長)

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