ゴーヤの醤油漬け by井口和泉

熟したゴーヤーは果皮が黄色くなる

果肉の苦さから「苦瓜(ニガウリ)」とも呼ばれるツルレイシは沖縄ではゴーヤーと呼ばれています。ゴーヤではなく、ゴーヤーです。葉が暑く日光を遮るのでグリーンカーテンとしても人気で、沖縄料理ブームもあり、チャンプルーとしてすっかり有名になりました。若々しい濃い緑色とイボ状の突起の表面が個性的ですが、あれは未成熟のもの。熟すと果皮が黄色くなり、種は赤いジェリー状の甘い膜に覆われて、意外な美味しさへと変化します。

薬草と共に生きる島の人々の暮らし

薬草の勉強がしたくて、沖縄本島と周辺の離島を回っていたおり、高速船で25分の久高島へ行きました。五穀の入った壷が浜に流れ着き、ここから沖縄の穀物栽培が始まったという伝説を持つ島です。年間30もの神事がいまも島の人々の手で行われており(というのは島の人に案内してもらいながら聞いた話)、島の中を散策しているといくつもの御神域と出会います。陽射しは明るく強く、塩を含んだ風がふきつける島では植物も強くたくましいものが生き残る。ソテツやガジュマルのように暑い樹皮や葉をもつ樹木や、暑い果肉の中にたくさんの種を持つパパイヤやゴーヤーも厳しい環境に適したかたちを選んだのではないか。そういえば、本格的に野草や薬草に興味を持つきっかけになったのも、八重山諸島を旅した際に島の人々から「夏には暑すぎて植えた野菜はみんな枯れちゃうよ」、「その時々にある植物が野菜さ」、「むかしから薬草を食べてきた歴史がある」と教わったことでした。そのときどきの環境に則して食べられるものをいただく工夫が生きている。

ちょっと日持ちがして、気軽につまめるようにしたい

久高島でも、民宿(小さな島なのでホテルなどの大きな施設ではなく、民宿が主な宿泊先になります)の方が、庭からひょいと摘んだ苦菜(ニガナ。沖縄の言葉で「ンジャナ」、名前の通り苦い葉もの)とゴーヤーで夕食でした。ひとつは昼に釣った魚の腹の中に、島よもぎと共に詰めて酒蒸しに。さて残ったもうひとつはどうしよう。
温かい場所でもいできたとはいえ、明日には追熟して黄色くなるのは目に見えている。泊まっている人たちは明日にはみんな島を出るから、ちょっと日持ちがして、宿の方や新しく泊まりにくる人がつまめるものにしておくとよいだろう。

旅先で出会った人と“美味しい思い出”をつくる

縦半分に切ってスプーンで種を除いたゴーヤーを2~3mmにスライスして醤油に漬ける。半日から一晩漬けるとしんなりとして味が染みて即席のお漬け物になる。そのままいただくとしょっぱいので、和え物にしたり、炊きたてのごはんにしたり、玉子と一緒に炒めてもすれば一風変わったチャンプルーにもなる。この日は翌朝一番の船で島を出る同宿の方の炊いた玄米ごはんに混ぜておむすびに。多めにむすんで、私もすこしお相伴にあずかりました。旅先での出会いは一期一会。“美味しい思い出”で過ごせればますますうれしい出会いになります。

  1. ゴーヤーは端を切り落とし縦半分に切り、種をスプーンで除く。薄くスライスして容器に入れ、ひたひた程度に醤油を注いで半日から一晩置く。急いで漬けたいときは、ゴーヤーをさっと湯通しして醤油に漬けると味が早く染みます。好みで、鰹の削り節と共に漬けてもよい。
  2. そのまま、お漬け物、箸休めとして。炊きたてのご飯と混ぜてゴーヤーごはん、玉子と炒めてチャンプルー、キャベツの千切りなどと合わせて和え物や白和えなどにも。