「今日は十三夜です。お月見団子はいかがですか?」
いつも渋い顔でレジをしきっている、若店員さんが表にでて、呼び声をあげていた。
先月の十五夜は曇りだった。
今日も時折、薄日がさす程度、名月は仰げそうもない。
生まれも育ちも根津という友人は、商店街に同級生のお豆腐屋さんがあったり、
かくれんぼに遊び慣れた子どもたちだけが知ってそうな路地裏を通って、
やっとたどり着ける、お墨付きイタリアンを知ってたり。
彼女の肥えた舌と、安心かつ身体に優しい食材を調達して、
毎日の食卓を彩る暮らしの丁寧さに感嘆しきり。
日々、この種の話題探しに余念ないはず、、の私を遥かにしのぐ情報量にいつも舌を巻く。
彼女がナビゲーターとなってくれ、定期的に集う女子校時代の友人達と千駄木散歩。
「ねっ、あのお店、雰囲気良さそう、、」と指差しすると、
「ん?」と一瞥したあと、
「あー、あのお店は最近の”谷根千ブーム”にあやかろうとオープンした感じ、値段がいいだけ。きっとすぐになくなるよ、、」
と、歯に衣を着せぬ言い回しで、ばさっと斬る。
本日のメーンのお店は『和菓子薫風』さん。
「季節ごと、全国各地からの自然素材が和菓子に取り入れられていて、
基本の小豆も自家製、北海道大納言で炊いていてね、
それぞれの和菓子に合った選りすぐりの日本酒と合わせて、いただくんだよ」
と事前に教えてもらっていた。
千駄木駅降りてすぐではあるけれど、細い小径の一軒家は、
看板もなく、杉玉が吊るされた店構え、大きな丸テーブルがひとつで、メニューもない。
少し遅れた私は、先陣の頬を赤らめた友人達から、和菓子の説明を受けることに相なった。
焼きなす、ミョウガなどと合わさった『きんつば』、
コリアンダーシード、カルダモン、オレンジピールに3種類のドライフルーツの入った少し辛口な『白羊羹』。
無濾過のフルーティーに香り立つ日本酒が羊羹のスパイシーさを芳醇にしてくれる感じ、、
さらに一押しは、ジャスミンシロップ、甘夏ピールがアクセントの寒天ぜんざい、、
長野県の糸寒天で作られているそう。
酔いがかなりまわった火照りの喉元をすーっと 溶けていく爽やかで品の良い甘み。
と、
次々味わった斬新な組み合わせに、嗅覚が尖ってきた頃合いに、濃いローズの香りがどこからか、、
香りの主である彼女に鼻を近づけると、
「ああ、ここに来る前に糠みそをかき混ぜてきたからね、糠の匂い消しね」と。
体質の変化からか、ここ数年は、アルコールが少し過ぎるだけで、寒気に見舞われたりすることばかりだった。
こんなに軽く爽やかに酔いがまわったこと、なかったな、、
日がすっかり短くなった夕暮れどき。
この下町のネオンは、優しい色調だなと、
映える友人たちの顔を見て思った。